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日本図書館研究会特別研究例会(第321回)報告


日 時:2016年6月5日(日)10:30〜12:00
会 場:大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)5階特別会議室
発表者:渡部幹雄氏(和歌山大学附属図書館長・教授)
テーマ:地方における生涯学習の視点からの図書館づくりの到達点と課題
     〜大分・長崎・滋賀・三重・和歌山での実践を通して〜
参加者:46名

はじめに
 長らく地域や,町や村で図書館と関わってきた。大都市圏と地方の格差は今でも大きい。
図書館人生を通して,文字通りの悪戦苦闘の図書館づくりの歴史でもあった。以前は「ポ
ストの数ほど図書館を」と言われた。自分も子どもの頃は近くに図書館がなかった。今は
「総ての中学校区に図書館を」という考え方を持っている。生涯にわたって学べる拠点を
図書館として網羅的につくっていけば身近に意識されるのではないか。

関係した図書館づくり
 1980年代は大分県,1990年代は長崎県,2000年代は滋賀県・三重県,20
10年以降は和歌山県で図書館づくりに携わった。和歌山大学附属図書館へは,塩見昇先
生と山本健慈先生の縁(熊取町立図書館の関係)で,愛知川を辞めてから半年ぐらい経っ
た頃に話があった。自分は公共図書館しか知らないので,「和歌山県の図書館振興に関わ
らせて欲しい。」とお願いした。学校図書館司書の配置率0%。その地元からの入学者が
全体の3分の1ということを知っていたので,和歌山県内の図書館改善に関わることを含
めて引き受けさせていただいた。教員志望の学生にも5年ほど講義している。地域の図書
館づくりも絡めて和歌山大学の図書館改革を進めた。おかげさまで開館以来約18000
冊から現在の約37000冊と貸出数も増加。「学校図書館も大学図書館も公共図書館も,
人と資料を結ぶという意味では同じではないか。」と思い始めている。
 節目ごとに図書館の開館に携わってきた。初めに関わった大分県・緒方町立図書館では,
当時町村に図書館がないのが当たり前の時代に,大分県で3館目としての図書館を作り,
住民さんの反応から,どんな小さな町でも可能性があると勇気をもらった。長崎県・森山
町立図書館では,「文化の香りのする町にしたい」という町の依頼で1990年代に関わ
った。パソコンの普及で「図書館の仕事が奪われるのではないか。」と言われた時代に自
分なりに考えたあるべき姿の図書館像を追求。滋賀県・愛知川町立図書館では,市町村合
併の時代には合併後も中学校区図書館が実現した。三重県・長島輪中図書館は,吸収合併
後にどういうことをすればその後の展開に良いかを考えた。和歌山県・那智勝浦町図書館
では,現状の図書館の改革の合意を貰い改革中。和歌山では,県立や国立大学図書館でさ
えも企業が参入しているときに行政としての有るべき姿を考えた。それぞれ時代の波を感
じながら,それぞれの立場を考えながら取り組んだ。

郡部における図書館の未設置自治体とその周辺環境
 現状として,図書館の設置率は,平成の大合併で名目的には解消されたことになってい
るが,実態は合併前と変わっていない。和歌山県内でも合併前の5つの図書館から合併後
には2つの図書館にまとめられたところもある。住民の生活の中に必要とされる図書館を
どう構築できるか,自分が悩み続けた課題である。
 郡部では他の施設との関係性も考えていかないといけない。東京23区内では公民館は
なかったが,郡部では公民館の存在が大きい。公民館がほぼすべて(集会,図書館,博物
館)の機能を引き受けている状態である。それ以上のことを提示しなければ図書館を説明
しきれない。例えば公民館は学校型スタイルであり,そのときにしか学べない限界性があ
る。講師の先生を離島で呼ぼうとすると,お金も時間もかかる。そこに一冊の著者の智慧
に出会える図書館が入り込める隙間があると思う。「いつでもどこでも学べるという生涯
学習の理念が実現できる施設となり得るのは図書館が一番である。」と説明することがで
きる。例えば,隠岐郡海士町の図書館では,島の様々な施設に本を置いて「島まるごと図
書館」として取り組むなど,いい活動をしている。書店やコミュニティ,学校図書館など
読書環境にも地域で格差がある。その環境も見た上で是非,生活に欠かせない図書館が必
要であると伝えていく。

図書館の設置根拠と関係者説明
 全体の中で関係者に納得いただくには,時間と丁寧な説明が必要である。図書館の優位
性をどう説明するか。図書館は教育施設である。生涯学習の重要な教育機関の位置づけを
全面に打ち出していくことである。それぞれの発達を保障して,生涯に亘り学ぶ権利を保
障することにより文化的な教育を享受できるという具体的なイメージを提示していく。

図書館設置の過程を通して
 図書館が必要とされるためには,まず不要から必要へと意識転換を促すこと,また成文
化したものを策定すること,従来の役割の時代の進化に対応した発展的な組織を明示する
ことである。牽引力の強い町長で達成できたとしても,口頭の約束ではなく手順を踏んだ
形あるプランを作成し,機関決定する。その後それを根拠に予算等を要求していく。一時
的ではなく,継続していくことが重要である。日本図書館協会の人口別の各種のランキン
グの統計で,開館以来ずっと愛知川町立図書館はランクインをしていた。これも最初の財
政への説明やコンセンサスが功を奏したと思っている。
 図書館が根付き,暮らしの中に図書館があることを広げていく。人口に集中していると
ころではなくても逆に図書館が中心になる。賑わいだけならスタバを呼べばいいかもしれ
ないが,地元からの意思によって発した賑わい空間を産むことが大切である。

今後の課題
 生涯学習拠点施設として機能する図書館を中学校並みの水準(専門性の水準・人員・待
遇・教科別に配した人員構成)で設置したいと考えている。そして,何よりも人材が一番
大事だと考えている。地域の実情にそった対応可能な専門職の養成が求められている。現
場で働いている人は,マニュアル・教科書に忠実に真面目に働いている。その真面目な人
の仕事が機械に近づくと,機械に変えられる。それぞれ専門分野が違う人と違う発想を持
っている人が図書館内で活かせることや空間をコーディネートとする力も求められている。
 図書館が学校ともつながっている事例がある。徳島県の美波町では,60年以上も前に
中学生のうみがめの調査記録を中学校の理科の先生の指導でまとめられて報告される。そ
れが東京大学の先生の目に留まり,ウミガメ産卵スポットとして有名になった。その後ウ
ミガメの博物館となる。そういう郷土探求の仕組みを作っていけるのが図書館の役割であ
る。
 地域の様々な力を取り入れながら連携してやっていく。それが連携先の周辺の方にも図
書館所蔵の資料の知識をひろげる。連携の役割分担をしていることによって,それぞれの
ポジションを高める。それを組み合わせていくことが大切である。
                             (文責:河西聖子 京都府立大学京都政策研究センター)